2017年にMuseum für Lackkunst にて行われる
「世界の卒業生展」の作品選抜のために来日をされた
モニカ・コプリン博士の紀行文と展覧会のお知らせ(予定)
リード文
ドイツ・ミュンスタ―の漆芸博物館館長モニカ・コップリング博士の2016年4月の日本での漆芸関連の訪問・調査記録です。主な内容は東京藝術大学漆芸科と漆刷毛業者への訪問、山形県での美術館訪問、柏原家での調査、及び現地での漆掻き作業です。上智大学での研究にはじまるコップリング博士の四十年におよぶ漆芸研究から得られた西洋の眼で見た日本の漆芸の現状と目指すべき姿、及び来年の漆芸展覧会主旨が記されています。
漆の源への旅行
東京で数十年前に研究し、その後20回近く日本を訪問した著者でも、今回は新しい発見がいくつかありました。2016年4月東京と山形への旅行は文章として書き残す価値のあるすばらしいものとなりました。
今回の旅行の最も重要な目的は、ドイツのミュンスターにあるMuseum für Lackkunst (漆美術館)で2017年4月に開催が予定されている展覧会の準備です。この展覧会は伝統的な日本の漆工品だけを取り上げた従来のような展覧会にはならないようにしたいと願っています。この展覧会のタイトルは「ディプロマプロジェクト(大学院生プロジェクト): パリ、サンクトペテルブルク、広東、東京」として、これらの都市の漆芸研究室ではそれぞれ特徴のある教育方針の下で将来性のある若い漆芸家たちが育っていますので、それらの若手研究者が近年制作した作品を提出してもらい、選定してもっともすばらしい作品をミュンスターで展示することとします。展覧会会期中、まず漆芸の制作状況を国際的に発表し、ワークショップの形で大学院生と指導教官の仕事を紹介してもらう予定です。世界の漆に携わる若者を一同に集め、彼らが生涯にわたって創造的な漆芸を続けるように導くことが漆工芸の明るい未来を確実にすることになると確信します。
その後山形県を訪れました。この地方の漆芸美術館館長の高橋国芳さんと学芸員の岡部伸幸さんが案内してくれました。特に印象深かったのは16世紀から続く古い武家屋敷である柏倉家でした。葦葺きのこの家は、1750年頃に現在の形に建てられ、明治時代に最後のおおがかりな改築が行われましたが、現在も一族の子孫である柏倉圭子が住んでおられ、豪華な磁器と漆椀で出される伝統的な食事と山形の酒がふるまわれ、中山地区の町長である佐藤敏治さんが私たちと同席してくれました。別棟にある青木邦昭による金属製の彫刻を見ることができました。
柏倉家の邸宅からそれほど離れていないところにある樹齢1200年の天然記念物の桜を見ることができました。私が訪れた4月の終わりには見ごろで、花びらが舞い散り、春の雪として地面にハラハラと落ちていて、花盛りでした。寿命が長いといえども百年を超える人が少ない我々人間は、古今この木からどれほど多くの生命力が生まれてきたのか想像もつきません。
山形県では、自然の気配をそこここに感じることができます。近くの山ではモクレンが咲く森の中に漆の木立があり、そこで漆を採取することができました。ウグイスの声を聴きながら作業をしていると、幹には黒くなった傷跡が多数残っていることがわかり、漆の採集人が何度もこの森に来ていたことが伺えました。私の連れのデイブ・ファン・ゴンペル(芸大の漆研究クラスの博士課程の学生)が直ちに作業を始めました。 彼は、何本かの木を掻いて新しく傷を入れ、滲み出た樹液を丼に溜めました。収穫の季節は6月にならないと始まらないので、予想どおり収穫量はわずかでした。それでも私たちは、この少量の生漆に感激し、特にデイブが細かな目の布でそれを濾して木の幹のくずを取り除いた後は、感激がひとしおでした。私は前年に漆の木から落ちた種を集めました。なぜなら幾つかの若木をうまく栽培するといった望みをまだ捨てていないからです。またウグイスの声が森に響き渡りました。山形は春でした—はかり知れないほどの豊かさをありがたく享受した喜びに震えました。
モニカ・コプリン博士
著者は1975-76年に上智大学で 研究をし、1990年からミュンスター漆美術館の館長を務めている。
世界の卒業生展
会場:Museum für Lackkunst(ドイツ、ミュンスター)
会期:2017年4月2日(日)〜8月20日(日)(予定)
東京藝術大学は、過去の修了制作より選抜された作品を出品いたします。
2016年修了 荒井由美 |
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2015年修了 中静志帆 |
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2014年修了 新井寛生 |
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2012年修了 今井美幸 |
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2011年修了 佐々木岳人 |
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